ディズニーは来週からエンターテイメントの歴史において革新的な価格実験を始める。コロナウイルスによる映画館の閉鎖によって上映が厳しい中、ディズニーは新作『ムーラン(原題”Mulan”)』を、自社のストリーミングサービスDisney+において異例の動画配信で公開することに踏み切った。驚くことに月額650円ほどのサービスであるDisney+でムーランの視聴を希望するユーザーは一時的な追加費用として3200円も支払うことになるという。
このような価格設定は、自社コンテンツに絶対の自信を持つディズニーならではの芸当だ。ディズニーが推定212億円もの制作費用を回収出来るか否かは、この価格を消費者である一般家庭が適切な価格だと見なすかにかかってくると言えよう。CEOのボブ・チャペックはこの取り組みの成功の可否に関わらず、自社にとって興味深い実験になると述べた。また、ムーランの視聴を望む新規ユーザーの獲得も十分見込まれている。加えて、彼は新規ユーザー獲得による月額利用料収入の増加が、ムーラン制作費用の一部補填として機能するはずだと捉えている。ディズニー社の自社作品への確固たる信頼と消費者が作品に対していくらまで払うのかの境界線を見極めようとする姿勢から学ぶことは多いだろう。
こうした月額ストリーミングにおけるユーザー単価向上の試みは、音楽ストーリミングサービスの雄であるApple
MusicとSpotifyでも見られる。AppleはApple
Music利用者をApple NewsやApple
TVの利用者にもしようと企てる。またSpotifyも同様にポッドキャストやオーディオブックも提供することで、ユーザー単価の上昇を狙っている。ただ音楽業界全体を見渡した時に、ディズニーほど貪欲にコンテンツ単位での価格付けを行おうとする事例は極めて少ない。もちろん音楽業界とディズニーの行うビジネスに違いはあるにせよ、ディズニーの試みが音楽業界の価格戦略がいかに及び腰であるかを際立たせているのは間違いなさそうだ。
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