
はじめに
近年、スポーツビジネスを取り巻く環境は大きく変化しています。
人口減少による国内市場の縮小、グローバル化の進展、テクノロジーの進化など、クラブ経営に求められる視点もこれまで以上に多様化しています。
今回は、株式会社セレッソ大阪 代表取締役社長 日置貴之氏と、ダイナミックプラス株式会社 代表取締役社長 平田英人が、「これからのクラブ経営」と「スポーツ産業の未来」をテーマに対談しました。
国内市場だけでは成長できない
― クラブ経営に求められるグローバルな視点
平田:ダイナミックプラスでは、現在さまざまなスポーツチーム・クラブの皆様とご一緒させていただいています。
セレッソ大阪様とも、ダイナミックプライシングや個席需要分析など、さまざまな取り組みをご一緒させていただいています。
日頃お話を伺う中でも、日置社長はクラブ経営全体を非常に長期的な視点で捉えられていると感じています。
そこでまずお伺いしたいのですが、市場環境の変化が進む中で、今後のクラブ経営において重要になる要素は何だとお考えでしょうか。
日置:今後のクラブ経営を考えるうえで、国内市場だけを見ていては成長に限界があると考えています。
日本の総人口は現在約1億2,300万人ですが、日本は人口減少が進んでおり、30年後には1億人を下回り、現在よりも大きく市場規模が縮小すると予測されています。
一方で、アジア市場は人口・経済ともに成長が続いており今後も成長が期待されるエリアです。
そのため、これからのクラブ経営は「国内でどう戦うか」だけではなく、「アジアや世界とどうつながるか」という視点がますます重要になると思います。
現在、日本は観光地として世界から高い評価を受けており、多くの外国人観光客が訪れています。しかし、欧州のビッグクラブのように「この試合を観るために来日する」という観光需要は、まだJリーグ全体として十分には生み出せていません。
私は、Jリーグにはその可能性が十分にあると思っています。クラブ単位でもリーグ全体でも、海外のファンにどう価値を届けるかを考え、観光資源としてだけでなくスポーツコンテンツとして選ばれる存在になることが重要です。
スポーツはすでに国際競争の中にあります。クラブも同様に、国内に閉じるのか、それとも外へ挑戦していくのか、その選択が大きな分岐点になるのではないでしょうか。
平田:ありがとうございます。
私たちも多くのクラブをご支援する中で、人口減少はどのクラブにとっても避けて通れないテーマだと感じています。
そのような中で、「国内市場だけではなく、アジアや世界とどうつながるか」という日置社長のお考えは、これからのスポーツ業界全体にとっても非常に重要な視点だと思いました。
クラブ単体だけではなく、リーグ全体で世界へ価値を発信していくことが、日本のスポーツ産業のさらなる成長につながっていくのではないかと感じます。

「チケットを売る」から「体験価値を届ける」へ
― スポーツビジネスが目指す新たな価値
平田:先ほど、これからのクラブ経営についてお話を伺いましたが、
クラブ経営を考えるうえで、チケット販売やファンサービスも重要な要素の一つだと思います。
日置社長は、これからのスポーツビジネスはどのように変化していくとお考えでしょうか。
日置:これからのスポーツビジネスは、より「体験価値」を中心としたビジネスへ変化していくと思います。
私が特に参考にしているのはアメリカのスポーツビジネスです。アメリカでは単純にチケットを販売するのではなく、ホスピタリティや限定体験、選手との交流機会などを組み合わせ、一つの価値として提供しています。観戦そのものだけでなく、「そこでしか得られない体験」に対してお客様がお金を払う文化が根付いています。
セレッソ大阪でも、クラブ創設30周年の際に「背番号30」のスペシャルオークションを実施しました。ユニフォームに加え、試合観戦チケットや選手との交流機会、サイン入りグッズなどを組み合わせた特別な企画です。
実際に取り組んでみると、モノそのものではなく、「セレッソ大阪だからこそ体験できる価値」に多くの方が魅力を感じてくださり、非常に反響の大きい企画になりました。
今回の企画は、チケットやグッズを販売するというよりも、セレッソ大阪だからこそ提供できる特別な体験をお届けする取り組みだったと考えています。
今後のスポーツビジネスにおいても、チケットを単独の商品として考えるのではなく、その先にある体験全体をどのように設計するかが重要になると思います。試合観戦に加え、選手との交流や特別なサービスなど、クラブならではの価値を提供することで、ファンの皆さまにより深くクラブを楽しんでいただけるようになるはずです。
セレッソ大阪としても、これからは試合そのものだけでなく、その前後も含めたさまざまな体験価値を提供しながら、ファンの皆さまに新しい楽しみ方を提案できるような取り組みに挑戦していきたいと考えています。
平田:ありがとうございます。
本日のお話を伺い、これからはチケットそのものではなく、その先にある体験全体をどのように設計するかが重要になっていくのだろうと私自身も感じているところです。
価格ではなく価値で選ばれる時代
― ホスピタリティがクラブの競争力になる
平田:ますます変わっていくスポーツ業界。特に海外では興行的な要素で先進的な事例も多くありますが、日置社長は、日本のスポーツ業界において、今後さらに強化していくべきことは何だとお考えでしょうか。
日置:ホスピタリティの発想だと思います。
海外ではVIPエリアやホスピタリティサービスが非常に充実しており、スポーツ観戦だけでなく、その前後の時間も含めて価値として提供しています。
一方、日本ではまだそうした体験価値の設計や商品化の余地が大きく残されていると感じています。
日本のスポーツ業界には、まだ収益機会として十分に活用できていない領域が多く残されていると思います。ホスピタリティやVIPサービス、法人向けの商品設計など、スポーツの価値を事業として広げていく余地は非常に大きいと思います。
単純に価格を上げるのではなく、価格以上の価値を提供することが重要なのだと思います。
AIは意思決定を支える存在
― データ活用が変えるクラブ経営
平田:単に価格を議論するのではなく、その価格に見合う価値をどのように提供していくかが、今後のスポーツビジネスではより重要になっていくというのはまさに仰る通りですね。一方で、その価値は一人一人異なるものであったりします。一方、ここ数年、ビジネスではAIの活用が加速度的に進んでおり、ここ数年、スポーツ業界でもAIやデータ活用という言葉を耳にする機会が非常に増えました。
AIやデータ活用が今後のクラブ経営にどのような影響を与えていくとお考えでしょうか。
日置:AIやデータ活用は、間違いなくクラブ経営にプラスになると考えています。
ただし重要なのはツールそのものではありません。
データを理解し、活用できる人材や組織を作ることが必要です。
AIによって業務効率化や分析の高度化は進んでいくと思います。これまで経験や勘に頼っていた部分も、データをもとに判断できる場面が増えていくでしょう。一方で、そのデータをどう解釈し、最終的にどのような意思決定を行うかは人の役割です。
だからこそ、テクノロジーを活用できるリテラシーやケイパビリティを持った人材を増やしていくことが重要だと思います。
平田:データは経験を置き換えるものではなく、経験を支え、新たな気づきを与える存在であること、
また、AIやデータは目的ではなく、より良い意思決定を支えるための手段であるという点も非常に印象的ですね。。

スポーツ業界の未来を担う人材とは
― 専門性と多様な視点が成長を生み出す
平田:ここまでは、クラブ経営やスポーツビジネスのあり方について伺ってきました。
その実現には、組織を支える「人」の存在も欠かせないと思います。
これからのスポーツ業界にはどのような人材が必要になるとお考えでしょうか。
日置:スポーツ業界以外の経験を持った人材がもっと増えるべきだと思います。
スポーツ業界は良くも悪くも独自の文化を持っていますが、これからの成長を考えると外部の知見を積極的に取り入れていく必要があります。
実際に海外のスポーツリーグでは、MBA取得者や事業会社出身者など、多様なバックグラウンドを持つ人材が活躍しています。
「スポーツが好きだから働く」だけではなく、それぞれの専門性を活かしてスポーツ業界に貢献する人材が増えていくことが重要だと考えています。
平田:ありがとうございます。
ビジネスの世界で培われた知見や専門性を取り入れていくことでスポーツ産業が成長につながっているのは、米国のスポーツビジネスを見ていると仰る通りですね。日本のスポーツ産業においても、多様な人材が活躍することで、スポーツ産業全体がさらに発展していく可能性を感じました。
スポーツ産業を次のステージへ
― クラブ・企業・リーグが共創する未来
平田:本日は、クラブ経営、体験価値、AI・データ活用、人材など、さまざまなテーマについてお話を伺いました。
最後に、そうした変化を踏まえたうえで、これから日本のスポーツ業界の未来のためにて取り組むべきことは何だとお考えでしょうか。
業界全体として、人材や知見の流動性を高めていくことだと思います。
国内だけで完結するのではなく、海外との接点を増やし、成功事例やノウハウを積極的に取り入れていくことが必要です。また、スポーツを単なる競技運営としてではなく、一つの産業として成長させる視点も欠かせません。
クラブの価値を高め、ファンにより良い体験を提供し、その結果として持続的な成長を実現する。
そうした好循環を生み出していくことが、これからのスポーツビジネスに求められるのではないでしょうか。
平田:本日の対談を通じて、人口減少やグローバル化、AI・データ活用など、大きく変化する時代だからこそ、クラブ経営にはこれまで以上に長期的な視点が求められていることを改めて感じました。
本日は貴重なお話をありがとうございました。
ダイナミックプラスとしても、データや価格戦略を通じて、クラブやリーグの持続的な成長に貢献できるよう、引き続き取り組んでまいります。
まとめ
人口減少やグローバル化、テクノロジーの進化など、スポーツビジネスを取り巻く環境は大きな転換期を迎えています。
これからのクラブ経営には、国内市場だけに依存しない視点や、データ・AIを活用した意思決定、そして体験価値を中心としたビジネスモデルの構築が求められます。
国内市場の縮小が進む中、クラブにはこれまで以上にグローバルな視点と新たな価値創造が求められます。
そのためには、スポーツ業界の枠を超えた人材や知見を積極的に取り入れながら、ファンに新しい体験価値を提供し続けることが重要です。
スポーツを「好き」という想いだけでなく、一つの産業として成長させる視点を持つこと。
それが、これからのスポーツビジネス、そしてJリーグの未来を切り拓く鍵になるのではないでしょうか。
セレッソ大阪カスタマージャーニー部 チケットグループ グループ長 小林 誠司 様の
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