
はじめに
川崎フロンターレは、2022シーズンにダイナミックプライシング(以下、DP)をトライアル導入し、翌2023シーズンから本格的な運用を開始しました。その後も継続的に改善を重ね、2026シーズンからは「個席差額設定」の導入も発表されています。

今回は株式会社川崎フロンターレ 営業統括本部 カスタマーリレーション部 マネージャー(チケット・ファンクラブ) 兼 マーケティング戦略室 マネージャー 加藤悠也様 に導入の経緯から活用方法、今後の展望までお話いただきました。
Q1. まず、2022年にダイナミックプライシング(DP)をトライアル導入された背景について教えてください。
2017年の初優勝以降、タイトルを継続的に獲得する中で、クラブとしての価値が大きく向上している実感がありました。その一方で、「現在のチケット価格は、いまのフロンターレが提供している価値に見合っているのか」という疑問も生まれていました。
当時の価格設定は、どうしても過去の基準を踏襲してしまう傾向があり、需要に応じて柔軟に見直すことが難しい状況でした。こうした課題感から、まずは一部試合でトライアルを実施してみようという判断に至りました。
また、社内でも「価格についてデータを使って議論できる環境をつくりたい」という声があり、導入の後押しとなりました。
さらに近年では、ホームゲームに多くの方にご来場いただき、複数試合でチケットが完売する状況が続いています。一方で、チケットの高額転売行為が問題となっており、サポーターの皆さまからも多数のお問い合わせをいただいていました。
試合をご覧になりたい方が正規の方法でチケットを購入できない状況や、転売チケットによる入場トラブルを少しでも減らすためにも、需要に応じた「適正価格」で販売することが有効な対策の一つになると考えています。DP導入の背景には、こうしたクラブとしての課題意識も含まれていました。

Q2. トライアルを経て、2023シーズンから本格導入※されました。当時のファン・サポーターの反応はいかがでしたか?
※2023シーズンよりFCも含めた全面DP導入
2023シーズンは、コロナによる入場制限が完全に解除され、観戦環境が通常に戻ったタイミングでした。その年から全面的にDPを導入しましたが、ファン・サポーターの皆さまの反応は想定していたよりも落ち着いていたと感じています。
SNSでは、どうしても価格が高くなったケースだけが取り上げられがちではあります。しかし、当時はすでに複数のJクラブがDPを導入していたこともあり、「試合の需要によって価格が変動する仕組み」自体への理解が広がり始めていた印象があります。
また、クラブとしても「価格はクラブが恣意的に上げ下げしているわけではなく、販売状況や過去データにもとづいてAIが算出している」という点を丁寧にご説明することで、受け止めていただきやすくなりました。DPの特性をご理解いただくうえで、この説明のしやすさは大きかったと思います。

Q3. DP導入後、販売戦略を立てていくにあたって役に立ったことはありましたか?
DP導入後は、販売の初動がこれまでより明確に読みやすくなったと感じています。特に先行販売の段階でどの席種に反応が集まっているかが分かりやすくなり、「この席種は今日伸びそうだな」「一般販売に入ると価格が動きそうだな」といった傾向が、データとして可視化されるようになりました。
これは、DP導入によって販売データが整理され、分析しやすい形で蓄積されるようになったことが大きいと思います。感覚ではなくデータをもとに販売状況を把握できるため、試合ごとの需要を予測しやすくなり、より精度の高い販売戦略につなげられるようになりました。
Q4. 運用していく中で、需要に対する思い込みが覆されたケースはありましたか?
大きいのは、価格について客観的に議論できるようになったことです。これまでは過去の価格や担当者の経験で語られることが多かったのですが、DP導入後はデータをもとに「なぜその価格なのか」を説明できるようになりました。
また、経営層とのコミュニケーションもデータをもとに会話することができ、非常にスムーズになりました。
Q5. DP導入による社内の変化はありましたか?
Q.実際に販売することで券売の変化は起きましたか?
特に印象的だったのが、購入タイミングの変化です。
導入前は、試合直前(2日前〜前日)に売上が伸びる形でしたが、今回の導入試合では、販売初日から動きが大きく動くという変化がありました。
これにより、
- 入場者数の予測精度向上
- スタッフ配置・警備計画の最適化
といった運営面でのメリットも感じています。
結果として、より安全で安心なスタジアム運営につながる可能性を実感しました。
Q6. DP社によるシーズンシートの価格算出※はどのように活用いただけたでしょうか※
※別サービス
シーズンシートの価格を検討するうえで、参考になりました。
シーズンチケットの価格検討では、前年需要を可視化しながら、「この席種は需要が伸びているので値上げを検討すべき」といった議論をDP社算出のデータをもとに経営層と議論することができました。
DPはチケット運用だけでなく、クラブ内の意思決定プロセスをアップデートする仕組みにもなっていると感じます。
Q7. 他クラブが DP を成功させるために大切なポイントは何だと思いますか?
まず、需要が弱いときの価格も受け止める覚悟が必要だと思います。DPは価格を上げるための仕組みではなく、需要をそのまま映し出す仕組みです。需要が高い試合ばかりではありませんし、クラブの状況によっては価格が下がることもあります。
もう一つは、価格に見合う価値をつくること。
価格が動くだけでファンは納得しません。イベント、飲食、スタジアム体験など、クラブとして価値を高める努力を続けることが不可欠です。
DPは単体では成立せず、クラブ全体の取り組みがあってこそ活きる仕組みだと考えています。

Q8. 今後、DP社(ダイナミックプラス)に期待されることはありますか?
個席差額設定の精度向上や、価格変更のタイミングをより柔軟にする仕組みがあると嬉しいです。現在は1日1回の価格変動ですが、急な需要が動く試合では、価格が翌日まで変わらないこともあり、そのタイムラグを縮めたいという思いがあります。
そのほかにも、現在担当者の経験値や過去の慣習で値付けを行っている施設料金、パートナーの料金設定等についてデータに基づいた算出をしていただく、といったことも今後考えていきたいです。
加えて、新スタジアムの検討が進む中で、旧スタジアムの需要と比較しながら未来の価格設計をサポートしていただけると、クラブとしても非常に助かります。
まとめ
― DPは「価格を変える仕組み」ではなく、「価値と向き合う取り組み」
川崎フロンターレにおけるDP導入の歩みは、単に価格が上下する仕組みを導入するだけではなく、
「クラブの価値をどう届けるか」「サポーターとの関係をどう育むか」「客観的なデータでどう意思決定するか」
といった、クラブ経営の根幹に向き合う取り組みでした。
- 感覚頼りだった需要予測の精度向上
- サポーターに対する説明責任の強化
- 経営層との議論の質の向上
- クラブ価値向上に向けた継続的な努力
- 新スタジアムを見据えた未来の価格戦略
ダイナミックプラス株式会社は、今後もこうしたクラブの挑戦を支え、スポーツを通じた持続的な収益モデルの構築と、ファンの皆さまへの新たな価値提供に貢献してまいります。
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